2024年3月15日金曜日

亜熱帯スティールパン紀行

物事はどんどんシンプルに...これからまた暑い季節がやってくるかと思うと待ち遠しい。しかし、今年になってようやくわたしの '冬嫌い' が切実たる思いであるのを確信しましたヨ。温暖化?移り変わる四季の訪れ?申し訳ないですが一年中、燦々と日差し溢れた熱帯気候で平均気温20度を下回る地ではもう暮らしたくないなあ(春は花粉に見舞われるし)。とにかく今年はアップダウンの陽気から体調管理でえらい目にあった...。目指すは活気のあるハノイ、ホーチミン...本格的に引っ越せないか?などと夢想中だけど(ハノイも冬は寒いんですが)、現地でベトナム中部の少数民族が用いて有名となった伝統の竹琴楽器、トルン(T'rung)や一弦琴のダンバウ(đàn bầu)など弾きながら南国生活を満喫したい(笑)。ま、実際はベトナムの猛暑って日本とまた違った意味での過酷であり(そもそも南国は日中出歩く人少ない)、また東南アジアはその経済発展の裏で工場やバイクによる大気汚染の深刻化などもありましたね(汗)。












ちなみに、先日のVox Real McCoy WahやV846 Vintage Wahから引き続き、さらに 'トーキング・ワウ' という擬似的な人声に特化したものがありまする。古くは1970年代初めのいわゆるファズとVCFをベースとしたMaestroのFuzz Phazzer(コレもFP-1〜FP-3まで各々回路が違う)から1970年代後半に登場するColorsound Dipthonizerや 'エレハモ' のTalking Pedalなどが普及し、これは原初的なトークボックス(マウスワウ)とは別のVCFにおけるバンドパス帯域を複合的に組み合わせることで 'A、I、E、O、U' といった母音のフォルマントを強調、まるで喋っているようなワウの効果を生成するものです。その 'エレハモ' からはすでに 'ディスコン' だけど新たな 'Next Step' シリーズとして加速度センサーを利用したユニークなTalking Pedalや多目的なStereo Talking Machineなどが用意されております。そして、この手の効果のルーツ的存在である老舗ドラムメーカー製作の '擬似ギターシンセ' Ludwig Phase Ⅱ Synthesizerや英国のシンセメーカーEMSでデイヴィッド・コッカレルの手がけたSynthi Hi-Fli、現行品としてベルギーの奇才Herman Gillisさんによる傑作Sherman Filterbank 2などなど...。そんな強烈なフィルタリングから発振、シンセサイズの歪みをドラムマシン、ギターはもちろん管楽器にまでかけるモノとして、クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatや現在はソロでquartz-headやrabitoo、この高橋保行氏とのユニット 'びびび' で活動するサックス奏者、藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターのSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露。まさに 'オシレータのないモジュラーシンセ' と言っても良い化け物的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調してくれますヨ(動画途中の 'Intermission' は長いため第2部は58:33〜スタートします)。ちなみにですが、これら 'トーキング・ワウ' を管楽器のピックアップマイクからこの手のペダルに通して使用した感想としては、あまり思ったような '喋る効果' にはならないんですヨ(汗)。う〜ん、ギターと違って管楽器は倍音が多いのが原因なんでしょうか?(謎)。さて、このようなリゾナンスを強調する音作りに欠かせないものとしてLudwig Phase Ⅱを 'ラデシン' と呼び愛された日本を代表する作曲家の富田勲氏によれば、いわゆるMoogシンセサイザーの単純な波形に揺らぎを与えるべく 'なまらせる' ものから機器自体の発する 'ノイズ' がとても有効であることを力説します。

"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"









そして、フィルターといえばテクノや古のルーツ・ダブのリアルタイムなミックスで威力を発揮するダイナミズムの専用機ということで、ダイナミック・スタジオから払い下げてきた中古のMCIミキシング・コンソール内蔵ハイパス・フィルターを後に自身のトレードマークとしたキング・タビーの特殊効果をパッシヴで再現したものをご紹介。タビーをフックアップしたプロデューサーのバニー・リーをして "ダイナミックスタジオはあのミキサーの使い方を知らなかったんじゃないか?" と言わしめた独特なワンノブによるハイパス・フィルターは、ここからワン・ドロップのリズムに2拍4拍のオープン・ハイハットを強調する 'フライング・シンバル' の新たな表現を生み出すなどレゲエの発展に寄与します。そのハイパス・フィルターは、左右に大きなツマミでコンソールの右側に備え付けられており、70Hzから7.5kHzの10段階の構成で、一般的な1kHz周辺でシャット・オフする機器よりも幅広い周波数音域を持っていました。そのMCIコンソール内蔵のハイパス・フィルターのベースとされたのがAltecの9069Bという1950年代のフィルターモジュールであり、それをスペインのAudio Mergeがパッシヴで再現させたのがこのKTBK-1Bになります。スペインといえばBenidubなどダブに特化した機器を製作する工房もあり、なぜかルーツ・ダブに対する希求を隠さない情熱的な国でもあります(笑)。ちなみにこのKTBK-1Bと同種のコンセプトで製作されたものとして、Altec 9069をベースにしたWestfinga EngineeringのWF Filter 222Aという製品もありまする。さて、そのMCIコンソールの特殊効果についてタビーの下でエンジニアとしてルーツ・ダブの創造に寄与、'Dub of Rights' のダブ・ミックスも手がけた二番弟子、プリンス・ジャミー(キング・ジャミー)はこう述懐します。

"ダイナミック・サウンズ用に作られた特注のコンソールだから、すごく独特だったよ。最近のコンソールには付いていないものが付いていた。周波数を変えるときしむような音がするハイパス・フィルターとか、私たちはドラムでもベースでもリディムでもヴォーカルでも、何でもハイパス・フィルターに通していた。ハイパス・フィルターがタビーズ独特の音を作ったんだ。"


陽射し溢れるカリブ海とバハマ一帯。実は音楽的に '不毛地帯' ではなかったことを証明する怪しいシリーズ 'West Indies Funk' 1〜3と 'Disco 'o' lypso' のコンピレーション、そして 'TNT' ことThe Night Trainの 'Making Tracks' なるアルバムがTrans Airレーベルから2003年、怒涛の如く再発されました・・。う〜ん、レア・グルーヴもここまできたか!という感じなのですが、やはり近くにカリプソで有名なトリニダード・トバゴという国があるからなのか、いわゆるスティールパンなどをフィーチュアしたトロピカルな作風が横溢しておりますね。カリブ海といえばトリニダード・トバゴ、そして '20世紀最後のアコースティック楽器' として世界に羽ばたく打楽器、スティールパンを生み出した地でもあります。2本のマレットで叩けば真冬であろうとコロコロと南国のムード溢れるドラム缶の気持ち良さで、上記コンピレーションからもThe Esso Trinidad Steel Bandを始め数多の 'パンマンたち' が奏でます。また、バハマとは国であると同時にバハマ諸島でもあり、その実たくさんの島々から多様なバンドが輩出されております。面白いのは、キューバと地理的に近いにもかかわらず、なぜかカリブ海からちょっと降った孤島、トリニダード・トバゴの文化と近い関係にあるんですよね。つまりラテン的要素が少ない。まあ、これはスペイン語圏のキューバと英語圏のバハマ&トリニダードの違いとも言えるのだろうけど、ジェイムズ・ブラウンやザ・ミーターズ、クール&ザ・ギャングといった '有名どころ' を、どこか南国の緩〜い '屋台風?' アレンジなファンクでリゾート気分を盛り上げます。ジャマイカの偉大なオルガン奏者、ジャッキー・ミットゥーとも少し似た雰囲気があるかも。しかし何と言っても、この一昔前のホテルのロビーや土産物屋で売られていた '在りし日の' 観光地風絵葉書なジャケットが素晴らし過ぎる!永遠に続くハッピーかつラウンジで 'ミッド・センチュリー・モダン' な雰囲気というか、この現実逃避したくなる 'レトロ・フューチャー' な感じがたまりません。そして、このジャコ・パストリアス・グループのカリプソ風ファンキーな 'The Chicken' で叩くのはトリニダード・トバゴ出身の名スティールパン奏者、オセロ・モリノー。










そんなバハマといえば首都のナッソー(Nassou)、そのナッソーといえば 'Funky Nassou' ということで、この 'カリビアン・ファンク' で最も有名なのがバハマ出身のファンクバンド、The Bigining of The End。1971年のヒット曲で聴こえる地元のカーニバル音楽、'ジャンカヌー' のリズムを取り入れたファンクは独特です。このジャンプアップする 'Funky Nassou' 一曲だけでカリブの泥臭くも陽気な雰囲気はバッチリ伝わっており、その優れたファンクを全編で展開したデビュー作以後、ディスコ全盛期の1976年にバンド名そのままの2作目をリリースして消えてしまいました。そしてもう一度、Trans Airのコンピ 'Disco 'O' Lypso' から 'Funky Nassou' のディスコ・カバーをどーぞ。そして中米パナマ出身のウィルソン3兄弟を中心にアフロ、ラテン、ニューソウルからロックの熱気など雑多な要素を黎明期のファンク革命にブチ込んだバンド、マンドリルも異国情緒の熱い風を届けてくれまする。そんな彼らの代表作としてレア・グルーヴ・クラシックにしてヒップ・ホップの 'ネイティヴ・タン' 一派、ジャングル・ブラザーズの 'Straight Out The Jungle' でサンプリングされた 'Mango Meat' の格好良さよ!。









そして中南米から大西洋を渡り北アフリカへ上陸!。エチオピアから '昭和歌謡の哀愁を持つ男' (笑)ことムラトゥ・アスタトゥケを始めとした、この懐かしくも夏祭りの叙情溢れる 'エチオ・ジャズ' で今年の夏も乗り切って行きましょう。ジャマイカで推進されたラスタファリ運動の神ジャーの '化身' として推戴されていたのがエチオピアの皇帝、ハイレ・セラシエ一世だったということで、なぜかジャマイカもそうなのだけど、彼らと日本の音楽が持つ '演歌性' の親和感って一体どこで繋がっているのだろうか?(謎)。そのジャマイカといえばスカ、ロック・ステディから初期レゲエ期を支えたヴァイブ奏者、レニー・ヒバートも素晴らしい。まさに、この夏の夜の盆踊りとムラトゥ・アスタトゥケやヒバートのひんやりした和モノ感覚...不思議とハマってくるように聴こえませんか?。そんな歌謡性溢れる熱帯夜から一転、ジャズ界のアウトサイダーとして変拍子の魔術に取り憑かれたラッパ吹き、ドン・エリスの 'Despair to Hope'。まるでオモチャ箱を引っくり返したような音のピース(破片)は、ジョン・ケージの不確定性音楽から強い影響を受けながらアル・フランシスのヴァイブがその不穏な静寂の狂気に一役買っております。










さて、そんなラウンジなラテン・ジャズとアヴァンギャルドを繋ぐ稀有な存在としてこちら、孤高のインプロヴァイザーであるエリック・ドルフィーに触れないわけには行かないでしょう。ドルフィーってそのキャリアの始めからずーっと自身のバンドに恵まれなかった人だったと思うのだけど、それはオーネット・コールマンやセロニアス・モンク、マイルス・デイビスのようにバンドで自らの音楽を構築していくタイプではなく、すでにドルフィーの身体がそのまま木管と合一することで現れる '異物なアンサンブル' として完結していたと思うのですヨ。駆け出しの頃のチコ・ハミルトンからオーネット・コールマン、ジョン・コルトレーンらと一緒の時でもどこか '疎外感' の如くハミ出してしまう個性。その孤立から '居場所' を放浪するドルフィーの音楽性と親和性を保っていたのがチャールズ・ミンガスのグループ在籍時であり、そこにはエレクトロニカと共通する '顕微鏡のオーケストラ' ともいうべき微細な破片を拾い集めるような静寂と統率力を垣間見るんですよね。つまり、ミンガスのどっしりとした指揮がそのままドルフィーを自由に羽ばたかせる為の '土台' として機能しているのです。しかし、元祖 'DV男' として後ろから手に持った弓でバシバシ叩かれるような威圧感を与えるボスのご機嫌取るのは大変だったと思うのだけど(苦笑)、その鬱憤が 'LJQ' ことラテン・ジャズ・クァルテットのような軽やかなアンサンブルで一息付けたと思うのですヨ。そろそろドルフィーをコルトレーン的シリアスな語り口から解放してあげたいなあ...。一方、フランク・ザッパは 'Eric Dorphy Memorial Barbecue' で天才ドルフィーへのアンサンブルの希求を露わにしております。ザッパとドルフィーの共演なんてあったら鳥肌もんですよねえ...本当に惜しい。










一方、そのドルフィーに象徴される孤高ゆえにハミ出すしかない個性は、米国でも既成の様式美から外れた 'アウトサイダー' による越境者たちの試みへ受け継がれているのが面白い。ロスアンジェルス在住のサックス奏者にしてクリエイター、サム・ゲンデルの暖かな世界は、ドイツ製Rumberger Sound Productsの 'マウスピース・ピックアップ' K1Xを装着し各種ペダルでサックスを 'アンプリファイ' させております。ちょうど1990年代後半にトータスやThrill Jockeyレーベルなど 'シカゴ音響派' 周辺の匂いと共通するというか、何やらレイ・ハラカミのようなポルタメントを軸としたサウンドスケープを聴かせてくれるなど、この従来のジャズからハミ出した感性が良いなあ。そうそう、このゲンデルさんもタブラマシーンやリズムボックスを用いて緩〜いグルーヴを好んでるんだよなあ。しかし、現代音楽専門であったNenesuchレーベルも随分とポップな意匠へと変貌しましたね(笑)。


ここ日本ではLittle Tempoなどがこういうスタイルで早くからアプローチしておりましたが、ダビーな音像によるスティールパンとフェンダーローズ、ヴォコーダーの絡みがとっても気持ち良いなあ...。なるほど、ここでのローファイなブレイクビーツはRolandのSP-404SXで流してるのか。そんな去年に出会った動画の中でかなりお気に入りとなったのが、このフェンダーローズとヴォコーダー、スティールパンによるデュオのユニット。もっと再生数伸びても良いくらいカッコいいサウンドやってると思うんだけど、昨今の人たちにはあんまり訴えないのかな?(謎)。いまフル・アルバムを聴きたいアーティストのひとつなんですけどパンを奏でる渡辺明応さん、本業はお坊さんなんですよね(凄)。お昼の午睡に最適なほどトリップできる 'ローファイ&ワウフラの帝王' こと 'Boards of Canada' のような世界観が素晴らしい...めちゃくちゃインスパイアされました!。ちなみにわたしのスティールパン(ローテナーパン)はチューニング済みの中古を某所で入手したのですが、我が家に到着してスタンドにセッティングしたその夜、東京にそこそこの揺れの地震(3.11じゃないです)がやってきてドカン、コロコロ...の落下からあっという間にチューニングが狂ってしまいました(悲)。どうしようと思っていたところ兵庫の山奥で一人国産のパンを製作する唯一無二のパンマン、生田明寛氏にお願いして再度チューニングして頂きました。元の状態よりさらに響き良くしておきましたヨ、とまで言って頂き大感謝です。いつかは生田氏のパンが欲しいなあ...。

このスティールパンとエキゾチカ、そこにエレクトロニカとポップの要素を振りかけたイメージとして最適なのが細野晴臣氏による名曲、Simoon。1978年のYMOデビュー盤で開陳された ' 世紀末の砂漠' ともいうべきオリジナルからクラフトワークのラテン化に次いで挑戦したセニョール・ココナッツの 'YMOラテンカバー'、そして千葉を中心に活動していた(今はまた別メンによるYMOカバーユニットで継続中)秀逸なYMOカバーバンドCMOのこれぞ、21世紀の超絶ポップなアレンジによるSimoonまで名曲は時代を超えて色褪せません。コギャル風な(笑)Itsukiさんの 'ケロ声' 処理とカタカナ英語、ヴォコーダーが今の無機質な時代を象徴します。








そんなスティールパンの 'アンプリファイ' として、The Coradoの高品質なピエゾ・トランスデューサー・ピックアップを底面に貼り付けております。クラスAによるプリアンプ内蔵の完全バランス型であり、その高いS/N比のピックアップ特性を別途DC24〜48Vのファンタム電源により駆動します。本体裏面の-10dBのPadや50Hz〜17kHzの帯域でBass/Boostのハイパスフィルターを搭載するなど、ピックアップ単体で基本的な音作りにも対応しているのが嬉しいですね。ちなみにパン専用ピックアップというモノも米国で製作されており、The EnSoul Pan Pickupと称されたソレは250Hz〜100Hzにかけてハイパスフィルターの周波数帯域を設定した4種(Lead/Tenor、Double Second、Cello、Bass)がラインナップされておりまする。ピックアップ本体がマグネットで着脱可能なのはさすが 'パン専用' という感じで便利ですね!。また、スティール・パンの親戚?と言うべきか、近年登場した手で叩くハンド・パン用の中華製Muling Pick-Upなども使いやすそうですね(Ali Expressから購入可)。当然、装着位置はパンの中で最も音色の小さい高音域の湾曲面ど真ん中にすると分かりやすい...。本当は湾曲面上方からスタンドマイクも立てアンビエンスも集音するミックスにした方が芳醇な音色になるのですが(一応、ダイナミックマイクの名機であるElectro-Voice RE-20やSennheiser MD441Uなど所有しております)、なんかそういうことよりササッとやれちゃうセッティングを目指しているのですヨ。その最たるモノがZoomのマルチエフェクツA1 Four / A1X Fourに付属される単三電池2本で駆動するマイクプリアンプ、MAA-1。そのZoomのマルチ本体の方は特に欲しくないけど(苦笑)、このマイクのXLRからフォンへと変換するマイクプリだけは別売りにしてくれー、と発売時から望むくらい手に入れたかったのでした。なぜかこの付属品だけ中古で手放した奇特な人がいたようで、それを鷹の目の速さで(笑)見つけてササッと掻っ攫ったのはわたしです。エフェクターボードの後端にペタッとベルクロで貼っ付けておこう。しかし、この湾曲面をグルッと5度圏(サークル・オブ・フィフス)で配置してある旋律打楽器のスティール・パンを演奏することで、より新たなコードとヴォイシングの関係を意識出来たのは嬉しい収穫です。







そんなスティールパンと一緒に使ってみたいのが足下の 'DAW' ともいうべきループサンプラーのSingular Sound Aeros Loop Studio。このコンパクト・サイズで簡便かつ '緻密なスタジオ' を所有出来るというのが嬉しい本機は、同社のプログラマブルなドラムマシン、Beatbuddyと同期して拡張した音作りを可能とさせるもの。6つのトラック単位で録音、再生出来るループ・サンプラー。モノラル入力で最大3時間、ステレオ入力で最大1.5時間、SDカード使用時は最大48時間の大容量録音を可能とします。1つのソング・トラックに最大36個のループトラック、また各ループトラックへの無制限オーバーダビング、これらを大きな4.3インチのタッチスクリーンで波形を見ながら大きなホイールをスクロールしながらエディット、4つのフットスイッチで作成したソングをセーブ、エクスポートすることでリアルタイムに作業、演奏に反映させることが可能です。もちろんWi-Fi/BluetoothやMIDIと連携して外部ネットワークからのファームウェア・アップデート、保存などにも対応します。そして、複数のトラックのリアルタイム・コントロールを可能にするMaestro MIDIコントローラーも用意。本機を接続してアサインすることで足下でのソングコントロール、1回のプッシュで各トラックのミュート/アンミュート、アンドゥ/リドゥ、新しいソングパートへのレコーディング、各ソングパートの自由な順番による再生可能を選択することが可能です。本機は現在、ファームウェア・アップデートVer.5.0に対応しているのですが、その現行ヴァージョンとしてフットスイッチを金色のGold Editionで新たに用意されておりまする。そして、このループ・サンプラーと併用したいのがHologramのグラニュラーシンセシスによるグリッチペダル、Microcosmをハープであらゆるペダルやガジェット探求に勤しむEmily姉さんがご紹介します。Dream Sequence、Infinite Jets Resynthesizerで 'グリッチ' とループ・サンプラーの分野に新たな価値観を提示するHologram Electronicsから 'グラニュラー・シンセシス' の奇跡とも言うべき本機は、発想的にはElektronのOctatrackやDigitaktなどを簡易的にペダルに落とし込んだものとしてこの業界を賑わせました。まさに無尽に湧き出すように生成されるシーケンスの数々・・ここ最近では、よりユーザープリセットとしての自由度の高いMeris LVXに水を開けられている感もありますが個人的にはこのくらい分かりやすいインターフェイスの方が使いやすいですね。何よりこのMicrocosmを使った 'ビートチョップ' のセンスはヤバい!。そんなMicrocosmの基本的構成はステレオによる最大60秒の 'ループ・サンプラー' を軸に 'Preset Selector' を回して11種×4プリセットの44種からなる音作りを約束します。

【Micro Loop】フレイズの一部分を繰り返すモード
-Mosaic- 様々な速度で繰り返す
-Seq- リズムを再配置して繰り返す
-Glide- 繰り返すごとにピッチが変わる
【Granules】音の断片からドローンを生み出すモード
-Haze- ごく短い音の断片が次々入れ替わる
-Tunnel- 音の断片を周期的に繰り返す
-Strum- 最終入力音を繰り返す
【Glitch】入力音をリアルタイムに再配置するモード
-Blocks- 入力音を一定のパターンで再配置する
-Interrupt- エフェクト音が入力音に割り込む
-Arp- 入力音を分散和音のように散らす
【Multidelay】複雑な鳴らし方が出来るディレイ・モード
-Pattern- 4つの異なるリズムを持つディレイ
-Warp- フィルターとピッチ・シフトがかかるディレイ



ちなみにハープの 'アンプリファイ' でいろんなペダルを探求するEmily Hopkins姉さんによる 'グリッチペダル' 変異2種がこちら。そろそろこの手の分野も製品ラッシュの飽和状態で没個性化から懸念されておりましたが、やはりいま勢いのあるChase BlissとHologramは面白いペダルを作りますね。Reverse Mode CはEmpress Effectsとのコラボでお送りするマルチディレクション・エコー。2008年にリリースされて大好評を博士たSuperdelay搭載の特別なモードに特化、インスパイアされたものとのこと。前進、後進、上昇と各々異なる方向へ動く複数のディレイヴォイスを組み合わせレイヤー状の空間構築、内蔵シーケンサーでチョップやフリケンシーシフト(シフト2種、ヴィブラート、コーラス、トレモロ2種)からパターン構築など、多彩な効果を生成します。MIDI(PC、CC、Clock同期)、エクスプレッション・コントロール、タップテンポなどChase Bliss特有の '隠れ' パラメータにも対応することでペダルの限定的な世界を飛び出した拡張性を発揮。Hologram ElectronicsのChoroma Consoleは一昨年 'グラニュラー・シンセシス' の革命児として話題となったMicrocosmの機能を整理、新たなサウンドデザインでマルチエフェクツ化されました。本機に搭載される4つのカテゴリーで再配置可能なエフェクト・モジュールはプリセットで20種用意されており、それらはMovement(Vibrato、Phaser、Tremolo、Pitch)、Texture(Filter、Square、Cassette、Broken、Interference)、Difusion20(Reverse、Collage、Space、Reels、Cascade)、Character(Swell、Howl、Fuzz、Sweeten、Drive)、そしてツマミの動きをGestureでモーションキャプチャー、3種から設定出来るフィルター、タップテンポ、80種からなるユーザープリセット、MIDI(クロック同期)などなど、その縦4列に並ぶ効果を自由に入れ替えながらカラフルなツマミやグラフィックと合わせ触っていて楽しそうなペダルですね。動画を見る限りではデジタルによる歪みのプリセットなど、ギタリストに特化した印象を受けました。





さらにそのMicrocosmに追加してもうひとつ、新たに導入してみたのがVongon ElectronicsのPolyphase。米国カリフォルニア州はオークランドでエンジニア、Ryan McGillの主宰するこの工房は多目的なエンヴェロープ・フィルター/ジェネレータのParagraphs、1970年代後期のLexiconデジタル・リヴァーブをシミュレートしたUltrasheer(大好きなので2台所有)といったユニークなユニットを落ち着いた質感のウォールナット材に黒いコンポーネンツを組み込むという手の込んだもの。Moogerfooger無き後に家具調の木材というセンス含め、結構コレクション欲を刺激してしまうのですヨ。そんなVongonから去年の暮れに登場したPolyphraseは、Lexicon Prime Timeデジタル・ディレイをシミュレートして金属質なフランジング効果からL-Rのデュアルによるポリリズミックなステレオ・ディレイ、22秒のループ・サンプラーとMIDIによる外部機器とのクロック同期、プログラムチェンジ、コントロールチェンジなどを備えるなど、これまた '定番' を押さえながら攻めたアプローチでペダル界を賑わせる製品作りをしておりまする。





そして、せっかくのステレオ・ルーパーなのでこんな '疑似ステレオ' 効果でスティールパンの音像を広げてみます。古くはあの 'エレハモ' から名匠ハワード・デイビスの手により市場へ送り出された 'Mono to Stereo Exciter' のAmbitronなどがありましたが、現在ではスウェーデンの新興工房、Surfy Industriesからこんなアップデートされたモノが市場に用意されておりまする。基本的な構成は 'ABYボックス' のラインセレクターながら本機はアナログ回路により完全なバッファリングとStereo及びL/Rのモノラル切替によるソフトタッチのJFETスイッチング、トランス絶縁出力、アナログ相補コムフィルターによる疑似ステレオ効果、180度の位相反転、グランドリフトの各機能を搭載。その肝心の機能である疑似ステレオ効果は、ステレオのWidth(幅)と音量のVolumeコントロールの2つのツマミで操作してPadスイッチにより楽器レベルからラインレベルまでのインピーダンスに対応します。またアンバランスのみならずTRSフォンのバランス出力にも対応してDIボックスとしての使用も可能。面白いのは2台のアンプを鳴らす時に現れる 'Hollow Sound' の位相問題から、180度の極性反転回路により2つの出力プラグを半分ほど引き抜いた状態することで逆走になります。ちなみに、このStereo Makerの直前でいわゆるフィードバック・コントロールをリアルタイムに弄りたいということから今は無き米国のガレージ工房、Eye Rock ElectronicsによるO.K. Delayを接続。この手の 'ローファイ' な質感をシミュレートしたデジタル・ディレイに搭載されているのがPT2399というICチップであり、それを650msという短いディレイタイムながら筐体両側面にある2つの大きなホイールで原音→エフェクツのMixとRepeat、そしてペダル・コントロールをDelay TimeとフィードバックのRepeatsツマミ型スイッチで各々入れ替えることで全て足下により操作可能です。この工房からは他に、デイヴィッド・ギルモアがワウとエコーのフィードバックを組み合わせ音作りする 'カモメの鳴き声' サウンドをシミュレートしたエンヴェロープ・フィルターGullmour Wahを製作するなど、かなりニッチな需要に特化したモノということで一瞬注目を浴びました。














せっかくの旋律打楽器ということから(笑)、ここは叩いてシンセサイザーもトリガーしてみたいよな、ということでCVとエンヴェロープ・ジェネレータによる 'ユーロラック・モジュール' を物色してみます。あまり大仰なシステムにはしたくないのでモジュールのケースは4msのPod34Xをチョイス、JoranalogueのReceive 2とTransmit 2の各々6HPと8HP分のSynovatronのCVGT1...空いている10HP分にエンヴェロープでコントロールするCG ProductsのPeak+Holdを入れてみた。ちなみにこのマイクからCV/Gateへの変換モジュールでは、マイク入力を持つDoepferのA-119Vというモジュールが有名ですね。そんなニッチな同種品ではBefacoのInstrument InterfaceやCG Productsのピエゾ・ピックアップ付きPeak+Holdなどがありますけど、ここではそのPeak+Holdをピエゾ側のトリガーとして、もう一方のマイク側へは外部に用意したペダルや 'アウトボード' 類と連携すべくRadial Engineering EXTC 500のようなBastl InstrumentsのHendriksonというモジュールに接続。この種のモジュールは他社による同種製品としてMalekko Heavy Industry SND/RTN、Busy Circuits ALM006 S.B.G.、XAOC Devices Sewastopol、The Harvestman Black Locust、ステレオ入出力のStrymon AA.1といった製品があります。また、単なるインピーダンス・マッチングからモジュラーならではのCVを利用したトリガー/ゲート、エンヴェロープ機能との複合機としてもその威力を発揮。そしてReceive 2からトリガーで出力してPeak+Holdをエンヴェロープ・フォロワーにSynovatron CVGT1から変換後はBuchla Music Easelを発音させていく流れ...とやっていたのですが、Buchlaのバナナプラグに対応するPeak+Holdをゲット!(電圧による動作の安定性からBuchlaとのグラウンドを共通にする為アースプラグをPeak+HoldのIn 2に接続)。本機導入によりCVGT1での変換によるモジュールはケースから外し、Music Easelからのステレオ出力と後述するBastl Instruments Hendriksonからの出力をLand Devicesの楽器/ラインレベル切り替え可能な4チャンネル・ミキサーを介してステレオのDI機能を持つJoranalogue TX 2へと接続。そんなユニークなモジュールを製作する工房、CG Productsを主宰するChristian Guenther氏は元々ジャズ・ミュージシャンということで、ラッパから各種パーカッションと電子機器によるパフォーマンスを自ら披露しておりまする。まるでブルーノ・スポエリかギル・メレのような立ち位置にいる人だな(笑)。







そして、さらにスティールパンの 'ビートメイク度' を上げるべく直感的なシンセサイズということでSoma LaboratoryのThe Pipeをチョイス。いわゆる 'ヴォイスシンセ' というか、この一見EWIのような 'ウィンドシンセ' 風コントローラーに見えるThe Pipeを加えることでリズミックなプレイが可能。本機は専用のコンタクトマイクによりブレスやヴォイスでトリガー、様々な効果を偶発的にコントロール出来るロシア製の音源モジュールとなります。そのコンタクトマイクは中高域のトーンを拾う 'Standard' とよりナチュラルな出音の 'Flat'、より低域を強調する 'Bassy' の3種が各々用意されており、それを軸にした内蔵の 'シンセサイズ' の為の12種からなるアルゴリズムの内訳は以下の通り。

●Orpheus
The Pipeの為に最初に作られたアルゴリズムです。声によって反応する2つのヴァーチャル・レゾネータによって構成されています。声の高さを変えることでレゾネータをコントロールし、様々な周波数で共振させることが出来ます。

●Filterra
ダイナミック・レゾネータとリヴァーブのコンビネーションです。美しいリード・サウンドやパーカッシヴなサウンド、ノイズまで演奏することが出来ます。Freezeセンサーを使用してリヴァーブのサウンドをフリーズし、合唱団のようなバックトラックを作成出来ます。

●Synth
シンセサイザーのようなリードサウンドを演奏します。カットオフ・フリケンシーを調整可能なダイナミック・ローパス・フィルターを備え、リヴァーブ/ディレイ、オクターバーと一緒に使用出来ます。

●Reverb
リヴァーブと調整可能なディストーション、ディレイのコンビネーションです。FXセンサーでディストーションをオンにし、サウンドに柔らかいドライブを加えるサチュレータとして使用出来ます。DLY DBツマミを回すとディストーションにディレイが追加され、最大値近くまで回すと自己発振します。

●Madelay
あるポイントから別のポイントへとリードポイントがリズミカルにジャンプするユニークなディレイです。ジャンプのスピードはTempoツマミでコントロールしてトラックや他のビートに同期出来ます。テンポは次のアルゴリズムと同期しているので、演奏中に次のアルゴリズムと切り替えでクリエイティヴな演奏が出来ます。Freezeセンサーはディレイのごく一部をフリーズさせ、シンセティックな効果を生み出します。

●Pulse
入力した声をリズミカルにアルペジエートされたシンセサイザーの様なサウンドに変えます。Decayツマミでパルスの長さを調整し、より明確なサウンドにすることが出来ます。このアルゴリズムにはリンギング・リヴァーブが含まれており、入力した声にメタリックなトーンを加えます。

●Bass Drum
ヴォイス・コントロールによるRoland TR-909風のバスドラムです。入力音に対し敏感に反応し、様々なヴァリエーションやアクセントを付けた演奏が可能で、ドラムマシンでプログラムするのが難しい複雑なリズムを直感的に作成出来ます。このアルゴリズムはスネアドラムの演奏も可能です。高域の量がしきい値を超えると、バスドラムのサウンドの代わりにマイクからの処理済みのサウンドが再生されるので、このサウンドをスネアドラムとして演奏できます。

●Switchable Bass Drum
Bass Drumアルゴリズムのヴァリエーションで、入力音の周波数ではなくFXセンサーでサウンドを切り替えます。通常時はマイクからのサウンドを出力し、FXセンサーをタッチしている間、バスドラムを演奏することが出来ます。

●Bass Drum + Snare
Bass Drumアルゴリズムにスネアドラムを追加したアルゴリズムです。FXセンサーを押さないとスネアドラムが鳴り、FXセンサーを押すとバスドラムに切り替わります。

●Oktava
オクターヴ・ピッチシフター、フィルター、ディレイのコンビネーションです。ディープなベース・パッドやシュールなリード・サウンド、唸り声や珍しい発声方法を使って、野獣の咆哮や不思議な生命体の歌を演奏することが出来ます。

●Generator
The Pipeの中でも最もユニークなアルゴリズムで、声でコントロールされたサウンド・ジェネレータ、フィルター、リング・モジュレーター、動的フィードバックを搭載したディレイで構成されています。長く大きなサウンドを入力するとディレイのフィードバック・レベルが100%を超え、入力レベルが下がるまでサウンドの一部が自己発振しフリーズします。FXセンサーに触れると、この自己発振を止めることが出来ます。

●Harcho
Harchoは、米、クルミ、トマリのサワーソースが入って、ジョージア(グルジア)王朝風の濃厚で美味しいビーフスープです。このアルゴリズムは3種類のデジタル・ディストーション、ディレイ/リヴァーブ、ローパス・フィルターを組みわせたThe Pipeの中でも最も極端なアルゴリズムです。グルジア語の 'Harcho' の語感は英語の 'Harsh' (耳障り、刺々しい、荒い)に似ており、エクストリームなノイズや強烈な電子音が必要な場合は、このアルゴリズムを選択すれば間違いありません。天使と悪魔の聖歌隊、エイリアン・カモメの叫び声、黄泉の国から響く声、そのほか身の毛もよだつようなサウンドはこのアルゴリズムで実現出来ます。

しかしこのThe Pipeを前にして、やはりテクノロジーはまだまだアナログの時代に発想されていたものを容易に '再現' することに汲々としているのだなあ、としみじみ思っちゃいますね。というか、このピックアップに向けてラッパ吹いたり、口を付けてヒューマン・ビートボックス風に "ブンッ、チッ、パッ" とか言うのはちと間抜けな印象がありますけど(苦笑)。














さて、最後はスティールパンばかりに '浮気' してるワケじゃないよ、ということで(笑)、愛機であるTaylorの短いラッパをご紹介。このTaylorといえばヘンチクリンなデザイン過多のヤツ、ただただ重たい 'パクリMonette' なヤツには全く興味なかったのですが、アンディ・テイラー氏が2014年に独自設計の楕円形 'Ovalベル' で手がけたラッパ '46 Custom  Shop' Shorty Ovalは一目で惹かれてしまった。Taylorはこの年を境に 'Oval' と呼ばれる楕円形のベルを備えたシリーズを 'Custom Shop' で展開しており、それを短いサイズにしたトランペットとして新たな提案をしたことに意味があるワケです(そもそも彼はホルンの名門、Paxmanでベル職人として研鑽を積んでおります)。ええ、これは吹奏感含めロングタイプのコルネットではありません。トランペットを半分ちょいほど短くした 'Shorty' なのですが、ベルの後端を 'ベル・チューニング' にして '巻く' ことで全体の長さは通常のトランペットと一緒です。その 'Shorty' シリーズとしてはこの 'Oval' ベルのほか、通常のベル、リードパイプを備えたタイプも楽器ショーの為に製作されたので総本数は2本となりますね。重さは大体1.4kgほどなのですが、短い全長に比して重心がケーシング部中心に集まることからよりズシッと感じます。また、普段この 'Shorty Oval' はマウスピースに穴を開けPiezoBarrelピックアップ装着の 'アンプリファイ' で鳴らしておりますが、そのままアコースティックのオープンホーンで吹いてみても通常のラッパと何ら遜色無くパワフルに音が飛びますヨ。ただ、その 'Oval' ベルの大きさからHamonのミュートでは嵌まらずJoralのバブルミュート必須となりまする(汗)。そして、本機にはハンドメイド系工房のラッパでは 'MAWピストン' と並びフェザータッチによる操作性で好評の 'Bauerfeind' ピストンが備えられております。そのBauerfeindバウアーファイント社とはドイツ南ヴィスバーデンのナウハイムにある会社でTaylorやInderbinenにWeber、そのほか海外にある多くの工房へピストンブロックをOEM供給しております。過去、そのオーナー会社が何度か変わりWilson傘下の時期に製作された品質の評価が高いですけど、現在はオランダの大手管楽器工房Adamsの傘下に入っております。ちなみにTaylorでは、コレとは別にかなりの '巻き' の入ったショート・トランペットを 'Custom Shop謹製' で製作していたりします。そんなショート・トランペットにおけるルーツ的存在として知られているのは、過去フランスで製作され近年再評価からそのPujeのファンだったブレント・ピーターズ氏による '復刻Puje' のトランペットがあるのですヨ。大久保管楽器店のリペアーさんが試奏もせず一目惚れの 'ジャケ買い' でオーダーし手に入れたそーですが(笑)、いくつかのレギュラーモデルのほか、動画ではGetzen製のピストンを組み込んだ4 and 3/4のコパーベルの 'Shorty' と5 and 1/8のアンディ・テイラー謹製によるコパーベルを組み込んだ 'Shortay' ('Tay' はTaylorのTay)の比較が面白い。さらに最新作として、まるでわたしのヘヴィなTaylorショート・トランペットを研究したと思しき管体の '巻き' までそっくりな 'Super-T' なる短いラッパもラインナップ中...(こっちの'Super-T' もTaylorのTか?)。ちなみにPujeやわたしのShorty Ovalもそうなんですが、ベル側から最初に '巻く' ところでトリガーによりスライドさせることからクォータートーンなどマイクロ・チューニングに対応しているところは面白いですね。












一方、スイスのトーマス・インダービネン氏による工房Inderbinenのカタログの中でもレアな一品であるコルネット、Rondoを購入された日本の方がいるようです。個人によるカスタムオーダーで処理してもらったという黒く酸化したベルが格好良いですね!。ショート・コルネットとはいえ、そこはボアサイズのデカいラッパばかりラインナップするInderbinenということから、ズシッとした140mmのベルサイズはTaylorの 'Shorty Oval' と良い勝負です(笑)。そして名匠Monetteからは、これまた珍しいシカゴに工房があった時代の頃の 'STC-1' タイプと近年の見るからに '真鍮無垢材' 丸出しを金メッキした 'Cornette' なる豪華なコルネットが登場。Monetteのラッパ全般に言えるけど画像だけでは(一般的なラッパに比べ)そのサイズ感が狂いますね(苦笑)。一方、最近その勢いを誇っているジャズのラッパ吹き、クリスチャン・スコット。彼の作品 'Stretch Music' のジャケットに現れるラッパを上下引っくり返したような 'Reverse Flugelhorn' は正直、かな〜り格好イイんですが、このスコットさんはいろんなタイプのアップライト・ベルなラッパをAdamsに '一品モノ' でオーダーしております。そのフリューゲルホーンのみならず、'Sirenette' というこれまた独創的でユニークなコルネットも 'ACB' のオースティンさんがチェック。そして 'モダン・コルネット' の第一人者ともいうべきナット・アダレイが1968年にアプローチした '電気コルネット'。いわゆるH&A SelmerのVaritoneを用いてA&M傘下のCTIからリリースした 'You, Baby' は、前年にクラーク・テリーがアルバム 'It's What's Happnin'' でアプローチしたことを追いかけるかたちで 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を謳歌した異色の一枚となりました。このVaritone、サックスの場合はマウスピースにピックアップを取り付けますが、トランペットやコルネットの場合はリードパイプ上部に穴を開けて取り付け、コントローラーは首からぶら下げるかたちとなります。効果的にはダークで丸っこい音色のコルネットが蒸し暑いオクターヴ下を付加して、さらにモゴモゴと抜けの悪いトーンになっているのですけど・・。そんなVaritoneのコルネットで吹く貴重なナット・アダレイ1968年の動画から '電気うなぎ' こと 'Electric Eel' のライヴ。首からコントローラーをぶら下げて(2:29)、ピエゾ・ピックアップはリードパイプの上に穴を開けて接合(4:19)されているのがこの荒い動画から確認出来まする。

2024年3月1日金曜日

ライオット・イン・ラゴス

さあ、花粉舞う春風と共にいよいよ真打ち登場です、と今さらながら煽るわけじゃないですけど(笑)、長らくそのブランドイメージに胡座をかいていた?ワウペダルの名門Voxから、ついに伝説のリイシューともいうべき 'Real McCoy Wah' と 'V846 Vintage Wah' の2種が登場。管楽器奏者ならこれは、ジミ・ヘンドリクスよりあのマイルス・デイビスが 'アンプリファイ' したトランペットと共に踏んでいた印象が強いのではないでしょうか?。実際、Band of GypsysのFillmore East大晦日公演のバックステージにデイビスが顔を出したところから後日、ヘンドリクス所有品のひとつがデイビスの手許に送られてきたらしい、という噂が伝えられておりまする。








ワウと言ったらまずはVoxとCryBaby。まあ、コレも大元のIcarタイプのカーブを持った100kΩポット搭載によるワウワウミュートの名手 'Clyde McCoy' の名を頂いた英国JMI製から生産増大とコストダウンによりイタリアJenからOEMとして拡大(俗に 'Top Logo' と呼ばれるイタリア産の 'Vox CryBaby' や 'King Vox-Wah' などなど')、その一方で米国のThomas Organからも新たに日本のTDK製インダクターを搭載したV846が製造されるなど市場は入り乱れてワケわからん状態に突入します...。ジミ・ヘンドリクスによるワウの名演といえば 'Voodoo Child (Slight Return)に集中するのでしょうが、個人的には '真夜中のランプ' の幻想的なサイケ感が好きなのです。そしてデイビスの話に限ればヘンドリクスから貰ったClyde McCoyは1971年のステージまで愛用し、サウンドとバンドメンバーを一新した1972年以降は当時Thomas Organの新製品であった 'King-Wah' を足下に置き活動停止する1975年まで突っ走ります。ちなみに当時の呪術的ステージを演出する 'ポリモーダル' な響きの愛機、Yamaha YC-45Dオルガンの方ではCryBaby(もしくはMorley)を踏んでおりました。さて、今回の復刻であるVRM-1 Real McCoy WahとV846 Vintage Wahの2種はオリジナルの筐体から3Dスキャンで質感やペダルのカーブ含めリアルに再現されており、オリジナルに敬意を表してかDC供給無しの9V電池のみ対応の仕様となっております。




ちなみにわたしはヴィンテージのVoxやCryBabyを所有しておりませんけど、一方でこーいうマニアックなヴィンテージワウが足下にあったりします。あのマイルス・デイビスのバンドで特異なギターや各種パーカッション、EMSシンセサイザーなどを縦横無尽に弾きまくっていた怪人ギタリスト、ピート・コージーの愛機であるHalifax Wah Pedal。正確に言えば、わたしの所有品はそのHalifaxがドイツの名門 'Hofner' ブランドの為に製作していたOEM品でファズ内蔵の 'Z' というファズワウなのですが(汗)、基本的なワウとしての音色は一緒です。ユニークなのは踵側にOn/Offスイッチがあり、さらにギターやベース使用による帯域切り替えのスイッチが筐体左側から蹴って使え!というかなりの荒くれ仕様(苦笑)。1960年代後半から存在する本機はどこかワゴンセール品的なVoxの廉価版イメージがありましたけどピート・コージー使用による脚光もあってか、ペダルの可変幅は狭いものの実は '隠れ名機' と言っていいくらい古臭いワウとしての良い音色を持っておりまする。ちなみにコージーは足下へ本機と共にMisitronicsのエンヴェロープ・フィルターの名機、Mu-Tron Ⅲを配置、そしてなぜかMXR Phase 90、Maestro Fuzz Tone FZ-1などをEMSと共に大きなテーブルの上に鎮座させたセッティングで並べておりました(これらに追加してSonyのポータブル・カセット・レコーダーDensukeも必須)。Phase 90は時期的に 'Script Logo' の初期型、Fuzz Toneは時期的にFZ-1BやFZ-1Sなのかと思いきや上記画像から茶色筐体の初期型であることが判明しました(単3電池2本使用の3V仕様FZ-1か単3電池1本使用の1.5V仕様FZ-1Aのどちらかは不明)。また、ギター出力部の構造からTelecasterやLes Paul、変わり種の12弦Vox Phantom Ⅻや日本のモリダイラ楽器プロデュースによるMorrisの希少なセミアコMando Maniaなどでアタッチメント装着可能なJordan Electronics Boss Toneも使用しております(最初のLes Paulを弾く画像の出力部に注目!)。しかし、個人的に興味深いのは 'Maiysha' 後半に飛び出してくるピート・コージーの奇怪なギターソロってどうやって鳴らしているんだろ?(謎)。ファズとワウ、MXRのPhase 90をヴィブラート気味にかけてるっぽい音作りではあるのだけど、実はEMS Synthi Aの外部入力からギターを突っ込み内蔵のスプリング・リヴァーブとLFOでシンセサイズに変調しているんじゃないか?と妄想しております。一方、上記画像に見えるギラッとした銀色のメタルボックスのペダルは一体何なのだろう?と謎も深まるのですが、後ろにAcousticのスタックアンプと並び置かれてるLeslieスピーカー付属のプリアンプ兼Hi/Loフットスイッチかも知れません...。









えー、でもさあ、あの 'ハーマンミュート' と同じでラッパにワウかけたらモロにマイルスの真似だよなあ、それもちょっと格好悪いよなあ...いいんだよ、真似しなよ(苦笑)。わたしもラッパ始めてそのデイビスが俯いてペダル踏んでる写真見てヤラレちゃったひとりなんだから、これも一度は通過すべきラッパ吹きの掟だったりするのです。何よりデイビスのワウペダルの使い方ってあまりに奇異、同時代のランディ・ブレッカーやエディ・ヘンダーソン、イアン・カーなどと比べても従来の伝統的トランペットの奏法を逸脱した唯一無二なんですよね。特に1971年発表の2枚組 'Live-Evil' では要所要所でオープンホーンとワウペダルを使い分け、それまでのミュートに加えて新たな 'ダイナミズム' の道具として新味を加えようとする意図は感じられた。しかし1972年の 'On The Corner' 以降はほぼワウペダル一辺倒となり、愛器マーチン・コミッティーはまさに咆哮と呼ぶに相応しいくらいの 'ノイズ生成器' へと変貌...。それはいわゆるギター的アプローチというほどこなれてはおらず、また、完全に従来のトランペットの奏法から離れたものだっただけに多くのリスナーが困惑したのも無理はなかったと思うのです。正直、いまの視点から見てもこのやり方がそれほどデイビスの意図していたものだったのかどーか...実はちと疑わしかったりもする(苦笑)。ギターのヴォイシングも研究して目指せ!ラッパのジミヘン!アレ?...なんかちと違くね?...みたいな(汗)。さて、そんなリズム楽器に捻じ曲げたトランペットの '変形' について1973年の来日公演を見たジャズ批評家、油井正一氏はこう酷評しております。

"マイルスの心情は理解できる。トランペットという楽器を徹底的に使い切った彼は、もはやこの楽器に新しい可能性を発見できなくなったのだろう。だがしかし、たとえ電化トランペットに換えたとしても、トランペットをリズム楽器に曲げて用いることは誤りである。(中略)「オン・ザ・コーナー」が私に駄作に聴こえたのは、そのためだ。(中略)電気トランペットによるワウ・ワウ効果は、ありゃ何だ。いくらマイルスが逆立ちしようが、ワウ・ワウ・トランペットの史上最大の名手で40年前に故人となったバッバー・マイレイに及びもつかぬのである。"

バッバー・マイレイだとか、カビの生えたラッパ吹きを持ち出さざるを得ないところに油井御大の苦しい批評の限界を感じさせるのだけど、しかし何もラッパでそんなことやらんでもいいのでは?という疑問があったことは間違いない。さて、そんなデイビスのワウペダルによるフレージングに大きな影響を与えたのでは?と思わせるのがブラジルの打楽器、クイーカとの関係なんです。ええ、わたしくらいしか未だそんな主張はしておりません(汗)。あの印象的な 'Isle of Wight' のライヴ動画で、デイビスのステージ後方を陣取りゴシゴシと擦りながらトランペットに合わせ裏で 'フィルイン' してくるパーカッショニスト、アイルト・モレイラの姿はそのままデイビスのワウを踏む姿と完全に被りますね。その変貌ともいうべき録音の端緒としては、1970年5月4日にエルメート・パスコアール作の 'Little High People' でモレイラのクイーカやカズーと 'お喋り' するようなフレイズを披露しており、すでにこの時点で1975年の活動停止まで探求する 'アンプリファイ' の指針は示されていることに驚きます。一方、そんなマイルス・デイビスがワウペダルとの決別をした一曲として6年もの沈黙を経て1981年に届けられた作品 'The Man With The Horn'。この思いっきりサイケだローファイだ咆哮だというダーティーで荒れた生活を象徴する野卑な 'ヴォイス' は、すっかり弱り切ったカラダと共に当時流行のブラック・コンテンポラリーでヘルシーなサウンドから老眼鏡や杖の如く手放せないご老人の固執するアイテムにまで成り下がってしまった(苦笑)。何せ6年もの間すっかりラッパの練習など辞めてしまったのでまともに吹けなくなっていたのですが、しかし、すでに 'ワウの時代' は過ぎ去っていたことをスタッフに告げられペダルを隠されてしまったことからもう一度 '老い' に抗うのが晩年の10年間です。ちなみにデイビス本人によるワウペダルとヴォリュームペダル 、そしてステージ上を四方から囲まれる大音量のアンサンブルにより変化する耳のポジションが音楽の新たな '聴こえ方' を開いことについてこう述べております。

"ああやって前かがみになってプレイすると耳に入ってくる音が全く別の状態で聴きとれるんだ。スタンディング・ポジションで吹くのとは、別の音場なんだ。それにかがんで低い位置になると、すべての音がベスト・サウンドで聴こえるんだ。うんと低い位置になると床からはねかえってくる音だって聴こえる。耳の位置を変えながら吹くっていうのは、いろんな風に聴こえるバンドの音と対決しているみたいなものだ。特にリズムがゆるやかに流れているような状態の時に、かがみ込んで囁くようにプレイするっていうのは素晴らしいよ。プレイしている自分にとっても驚きだよ。高い位置と低いところとでは、音が違うんだから。立っている時にはやれないことがかがんでいる時にはやれたり、逆にかがんでいる時にやれないことが立っている時にはやれる。こんな風にして吹けるようになったのは、ヴォリューム・ペダルとワウワウ・ペダルの両方が出来てからだよ。ヴォリューム・ペダルを注文して作らせたんだ。これだと、ソフトに吹いていて、途中で音量を倍増させることもできる。試してみたらとても良かったんで使い始めたわけだ。ま、あの格好はあまり良くないけど、格好が問題じゃなく要はサウンドだからね。"






しかしですねえ、実はこの '誤用' には大事な点もあるのです。トランペットに通底する頑固な西洋金管楽器のバックグラウンドを剥ぎ取ること、より 'ヴォイス' としての金管が持つ原初の感覚へと戻ること。ワウの音色を "アフロの原初だ!" とデイビスが言ったかどーかは知りませんが、実際1970年代はまさに 'ワウの時代' とばかりにロックからファンク、俗に 'ブラックスプロイテーション映画' と呼ばれた黒人が主人公のアクション映画のサントラでチャカポコ、チャカポコ、クワァ〜っと喋るようなリズムカッティングがアンサンブル全体から醸し出されておりました。そんな鋭角的なリフとワンコードの美学を貫いた 'JB' ことジェイムズ・ブラウンの一糸乱れぬアンサンブルは、ナイジェリアの大地でより混沌としたアフロビートのポリリズムで '溢れていく' アンサンブルへと変貌します。

 






こーいう 'ハチロク' なアフロ・ポリリズムのサウンドにアプローチするのにストレートなトランペットの音色がハマるとは思えない...。ナイジェリアのお隣、ブルキナ・ファソの超ハイパー・アフログルーヴの老舗、オルケストル・ポリ・リィトモ・ドゥ・コトヌーを始め、いわゆる米国黒人がゲットーで奏でるファンクがそのまま '誤用と剽窃' の一例として、カリブ海や西アフリカのゲットーで各々 '変奏' として換骨奪胎されていきます。我々が現在認識している黒人音楽のグルーヴと呼んでいるものの大半は米国産なんですが、当然、米国の黒人に対してジャマイカの黒人とナイジェリアの黒人ではリズムの取り方が違うのです。アフロビートと呼ばれるグルーヴの元にジェイムズ・ブラウンのファンクとの関係があるけど、ある意味でそれは ‘誤用’ による多様性の現れと言って良いでしょう。レゲエのルーツであるスカやロック・ステディが、そもそもはカリブ海を隔てて米国から入ってくる感度の悪いラジオから2拍、4拍を強調するように(途切れ途切れで)流れてくるR&B ‘ジャマイカ流’ 解釈として始まったという説も同様です。









さて、西アフリカでは現在 'アフロビーツ' (さらに細分化して 'バンクー・ミュージック' といったサブジャンルもあるらしい)のムーヴメントがジワジワと欧米の音楽市場を席巻しており、その中でも '台風の目' 的存在なのが1990年のナイジェリアはラゴス生まれ、Wizkidだ。いわゆる1970年代に席巻したフェラ・クティらアフロビートの隔世遺伝としてガーナのハイライフ、ナイジェリアの伝統的ジュジュの影響を維持しながら、実際には直接的な影響を受けていない新世代のアフロポップ・ムーヴメントとのこと。アフロミュージックに大きな影響力を持つカリブ海のラテンリズムであるソン・クラーヴェからダンスホールのデジタル・ラガやレゲトンを通じて世界に頒布したトレシージョを下敷きにEDM(特にヴォーカルの 'ケロ声処理' など)のアフロ変異と言って良いでしょうね。カナダ出身のラッパーであるドレイクやフェラ・クティの息子フェミ、DJ Spinallに女性ヴォーカルのティワ・サベージ、ラゴス版メアリーJブライジといった趣のテムズなど同郷とのコラボ(てか作品数の乱発とコラボ多過ぎてついてけない!)含め、ナイジェリアポップのひとつの大きな勢力を担っております。このようなアフロポリリズムとEDMにおける変容は、そのまま何度でも組み直されることの '変奏' によりビートが身体の限界を '管理' する様態へいつでも接近したい欲求の表れではないでしょうか。これは昨今、世界的に流行するヒップ・ホップ・ダンスの一種である 'Poppin' において、まさにビートと拮抗するように身体の限界に挑む創造性を発揮するビートの細分化として可視化しております。ダブステップに特徴のウォブルベースに合わせてブルブルと痙攣させたり、無重力に逆再生するような流れでガクガクとヒット(身体を打つようなPoppinの動きをこう呼びます)させる特異な動きなど、まさにサイボーグの時代到来を思わせる神経質なまでの身体性...。この断片化された情報の 'かけら' をひとつずつ収集、分解、再解釈していく姿はそのまま、英国の音楽批評家サイモン・レイノルズによれば "想像を超えた激しい情報過負荷時代に対応するため、再プログラミングされた身体の鼓動" であると同時に "ステロイドを使ったポストモダンのダブ" とドラムンベースの時代に定義をしました。まさにこれまでの器楽演奏によるスキルやプレイヤビリティとは全く違う領域から音楽を聴取、身体に作用する新たな感覚が生成するのを無視することは出来ません。